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鍼灸と腰痛、鍼灸と自律神経に関する様々な症状

 

鍼灸師 濱野英太郎

 

3:鍼灸とぎっくり腰

今回は、ぎっくり腰と鍼灸の関係について見てゆきましょう。

腰は、身体の要(かなめ)でとても重要な場所です。

腰、臀部の痛みを訴えて治療院に来院する患者さんが一番多いのではないでしょうか。
中でもいわゆる”ぎっくり腰”は、年間を通して来院される方が多いですね。ヨーロッパでは「魔女の一撃」と言わる程に急に激しい痛みに襲われるのがぎっくり腰です。ひどいものはその直後はトイレへ行くにも這って行かなければならず、立って歩けるようになるまで3日ぐらい掛かるときもあります。


良く起きるタイミングは、朝起きて顔を洗おうとして腰をかがめた時、重い物を持ち上げようと中腰になった時 、長時間の座り姿勢から立ち上がろうとした時などがよくあります。

病院では、多くは急性筋筋膜性腰痛または腰椎捻挫という診断になると思います。要するに、骨や関節には異常はなく、筋肉とそれを覆う筋膜の損傷という事になります。

なぜ普段は何気なくしている動作なのに、突然ぎっくり腰になるのでしょうか?

それは、あらゆる病気に言えることですが、その前段階としてちょっと腰が重いとか、固いなとか、冷えるなとか、体の発するサインがあるはずです。多くの患者さんは、頭の方が忙しく体のサインを見逃しています。

ぎっくり腰になる前の、1、2週間の生活を振り返ってみると、その原因が隠れています。睡眠不足が続いていた、仕事のストレスで常に緊張していた、会食が続き暴飲暴食していたなど思い当たる事があると思います。

そう言った普段と違う生活がしばらく続くと、体の血行が悪くなり、各組織に栄養が行き渡らなくなり、疲労が蓄積して筋肉、脂肪、軟部組織、靭帯といった組織の機能低下が起きます。

筋肉は伸びたり縮んだりといった弾力性がなくなり、靭帯や軟部組織は骨や関節を支える力が落ちていきます。そうなると無意識のうちに関節可動域の低下した、柔軟性の乏しい体になっているわけです。

その体の状態が限界に達しているにもかかわらず、同じ生活習慣を続けていると、ちょっとした動作が“魔女の一撃”なってしまうことになります。

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今度は東洋医学的に考えてみましょう。

第二回のコラムで、東洋医学では人間を生かしている目に見えない働きを「木・火・土・金・水」(もく、か、ど、ごん、すい)という自然界の五つの要素に還元して、病気の状態を分類すると書きました。

どの要素が腰痛には関係するでしょうか?

筋肉の伸びたり縮んだりと云った働きで云えば、『木』というカテゴリーになり、肝臓の働きや視神経やホルモン系も入りますし、様々なストレスや怒りの感情にも関係性があります。

また、体を守る脂肪や支える軟部組織は『土』のカテゴリーに入り、胃腸などの消化器系の働き、悩み、心配事などの感情が関係します。

骨や関節などは、『水』のカテゴリーになり、腎臓など泌尿器系の働き、恐怖の感情、そして睡眠などが入ります。また、そこからは根源的な生命エネルギーに関わって行きます。

よって、ストレスが続くと肝=筋、靭帯の働きに影響し、暴飲暴食が続くと脾=軟部組織の働きに影響し、睡眠不足が続くと腎=骨の働きに影響してぎっくり腰を引き起こす下地が形成されます。


東洋医学的な鍼灸では、これらの要素に注目して、その原因を分類し、各経絡がバランスをとって正常に働くようにもっていきます。そして経穴(つぼ)は、腰部にある「腎兪(じんゆ)」、「志室(ししつ)」、「大腸兪(だいちょうゆ)」、「腰関(ようかん)」、膝の裏の「委中(いちゅう)」や横にある「陽陵泉(ようりょうせん)」、かかとの外側の「崑崙(こんろん)」などが使われます。

ちなみに臀部から足にかけて痛みやしびれが出る坐骨神経痛は、多くは臀部にある梨状筋の緊張、硬縮が原因です。腰から足に走る膀胱経また胆経という経絡と関係しています。経穴(つぼ)では臀部の「胞膏(ほうこう)」、「秩辺(ちっぺん)」などが使われます。

日本語には腰を入れる、腰が引ける、腰が抜ける、ねばり腰、および腰など腰にまつわる言葉が多くあります。それだけ昔から日本人にとって、腰は重要なところですが、現代は生活様式の西洋化に伴って、腰の「ちから」が弱くなっていると言えます。すでに書きましたが、東洋医学的にも腰は、背骨の土台、生命エネルギーを司る腎と関係が深く、それが弱くなると心身全体に影響が及びます。

 

 

日頃から数分でも正座をして、腰を立てる習慣を心がけると良いと思います。

なお、ぎっくり腰の直後は、組織が炎症を起こし熱を生じているため患部を冷やして安静にしていると楽になります。炎症が強い時に無理に動かすとかえって悪化します。治療には2,3日して立って歩けるようになった時点でお越しください。

本当は、ぎっくり腰になる前の「ちょっと腰がおかしいかな」という段階で治療を受けられるのが望ましいですね。

次回は、鍼灸と自律神経に関する様々な症状についてです。

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